【コメント】(共同通信)「【関東大震災の死者】工業化、家族被災が背景か 目立つ若年層や地方出身者」
共同通信配信 2023年11月29日「【関東大震災の死者】工業化、家族被災が背景か 目立つ若年層や地方出身者」
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【関東大震災の死者】工業化、家族被災が背景か 目立つ若年層や地方出身者
日本の災害史上、犠牲者数が飛び抜けて多い関東大震災で、発生100年の節目を機に、死者約3万8千人分の詳細なデータが公表された。若年層や子ども、地方出身者が目立つという特徴から、東京や横浜などで工業化が進んでいた時代背景や、家族全体で大規模火災に被災した状況がうかがえる。防災研究の貴重な資料になりそうだが、識者からはさらに死者の氏名公表を求める声も上がる。
▽土地勘
「多くの若い人が亡くなっているのに驚いた。データで示されると具体的に状況が分かる」。28日から特別展が始まった東京都復興記念館(墨田区)を訪れたさいたま市の50代女性は、展示パネルを熱心に見入った。
関東大震災を長年研究してきた立命館大歴史都市防災研究所の北原糸子客員研究員は、死者の本籍地に地方が多い背景として「第1次世界大戦後の好景気もあり、当時の東京は紡績工場などが稼働し、男女とも多くの地方出身者が上京して働いていた」と指摘する。
関東大震災で犠牲者の死因の約9割は火災が占める。北原さんは「地方出身者が東京の土地勘に乏しく、延焼火災から避難する経路に迷ったことも考えられる」とみる。
▽家族被災
公表されたデータでは、若い世代や子どもの死者が占める割合が高い。北原さんは、当時の家庭は子どもが多かったとした上で「家族でまとまって移動した避難先や避難途中で、火災に巻き込まれたケースが多いのでは」と推測する。
防災上、貴重な教訓の示唆に富む死者約3万8千人の情報。公益財団法人「東京都慰霊協会」がデータベース化を進めたが、北原さんは「第一歩の作業に過ぎない。データがあるのだから、死者の氏名を出すべきだ」と強調する。「各地の人々が亡くなった。それぞれの死亡状況を共有する基盤にしないといけない」
▽氏名公表を
関東大震災で、祖父の石丸庄之助さんらが亡くなった神奈川県横須賀市の川島好子さん(84)は取材に「名前は出してほしい。遺族としてうれしいし、慰めになる」と語った。
災害と個人情報の問題に詳しい岡本正弁護士も「死者の氏名を公表すべきだ」という立場だ。「死者の情報は、そもそも個人情報保護法制の対象でない場合が多い。社会全体の財産であり、遺族にとっても故人がどう亡くなったのかを知る手掛かりになる」
100年が経過した中で、岡本弁護士は「忘れないためには、数字だけでは不十分。氏名があることで検証が進むし、死者に対する敬意を社会が持ち続けられる。一人一人の生きた証しである名前を出すことで命の大切さや大震災の重みが伝わる」と力を込めた。