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【コラム】気象予報士試験の備忘録

2023年3月10日、第59回気象予報士試験に合格致しましたので、謹んでご報告いたします。

これまで支えて下さった皆様に心より感謝を申し上げます。

以下、忘れないうちに受験履歴、受験の雑感、受験のきっかけ、学習方法についてメモを書いておきます。

 

[受験の履歴]

1回目 令和3年度 第2回(第57回)2022月1月受験 学科一般:合格 学科専門:合格 実技:不合格

2回目 令和4年度 第1回(第58回)2022年8月受験 学科一般:免除 学科専門:免除 実技:不合格

3回目 令和4年度 第2回(第59回)2023年1月受験 学科一般:免除 学科専門:免除 実技:合格

 

 

[受験の雑感]

1回目(第57回・2022年1月)は、自己採点で択一がいずれも1桁(各15点満点で11点程度が合格ライン)。実技では1も2も時間が足りずに空欄ばかりだった。高校数学赤点、元来文系の自分に気象予報士などやはり向いていないのだ。ドラマのようには上手くいかないなあ、という感想とともに気象予報士試験についてはもう忘れることにした。ところが、いざ結果通知のはがきをペリッと開けると、なんと学科はまさかのダブル合格。公式が覚えられず複雑な物理の計算が苦手な分、覚えれば何とかなる分野についてはある程度勉強の成果があったようだ。それにしても驚いた。これで次回と次々回は択一免除で実技に集中できる。お天気の神様のくれたチャンスを何としてもモノにしたいと考え、あわてて実技試験の本格的な対策に着手する。

 

第2回目(第58回・2022年8月)は、第1回目の結果が分かってから勉強を再開し、実技のみ受験。ある程度自信をもって臨んだつもりであったが、これまでに見たことのない図表や概念の問題が複数出てしまい、試験会場で面食らった。冷静さを欠いてしまい、実は単なる数値の読み取りでよいだけのラッキー問題が全滅に。時間も足りなかった。自己採点も特にすることはなかった。

 

第3回目(第59回・2023年1月)も、第2回目の結果が分かってから勉強を再開し、実技のみの受験。実は年末の1か月くらい気象予報士試験のための学習を一切しない期間もあった。これ以上もうやりようがないのでは?過去問やっているだけで本当に受かるの?また奇問難問に返り討ちにあうのでは?という、やや燃え尽き症候群気味になっていたのである。さすがに残り3週間はスパートをかけて、また過去問をひたすら繰り返し、そのままの勢いで受験に突入する。今回は学科免除の最後の回となる背水の陣。不合格でもこれで最後の受験にすることは決めていた。ふたを開けると、想定範囲内の素直な問題ばかりの印象を受けた(とはいえ個別の作業や計算はとてもしんどかった)。実技1も実技2も時間内に全ての回答を書くことができた。これまでで一番手応えのある実技試験となり、「もしかして?もしかするかも?」という程度には受験をやり切った感じはあったように思う。逆に、これで合格できないのであれば、今後どんな勉強をしても自力では受からないであろうという諦めもあった。結局のところ自己採点はしないまま合格発表日を迎えることになった。3月10日になり発表をウェブサイトでチェック。自分の受験番号を見つける。これほど嬉しい合格発表は22年ぶりかもしれない。

 

[きっかけは]

2021年5月にスタートしたNHKの朝ドラ「おかえりモネ」。東日本大震災のあった3月11日。清原果耶さん演じる主人公モネは、仙台の高校の合格発表を見に行っており、津波に襲われた故郷気仙沼の離島・亀島に居なかった。あの日、あの場所に居なかった、何もできなかった、と自責する18歳の主人公が、色々なものを乗り越え、取り込み、成長していく物語。そのきっかけの一つが「気象予報士」を目指すこと。合格率が5%程度であることもその時初めて知る。なお、朝ドラが東日本大震災をテーマにしたのは、じぇじぇじぇの「あまちゃん」(2013年)以来ですね。

 

私自身も東日本大震災をきっかけに「災害復興法学」を興し、講座創設と拡充を目指す研究教育活動をはじめた。2021年で、慶應義塾大学の講座開設から10年が経過。複数大学で「災害復興法学」をベースにした新しい講座を創設できるようにもなった。今の自分は東日本大震災抜きに語ることはできない。しかし、2021年当時は授業はコロナ禍で原則オンデマンド形式。リアルの会合もほぼゼロ。世界的なまん延は拡大し続けていた。直接の講義や、研究でのフィールドワークができない閉塞感はピークに達していた。そのようななかで、朝ドラの主人公モネが一歩前に進むきっかけとして「気象予報士」に挑戦するという場面。その決意と思いが、とても尊いものに思えたのであった。よし、おじさんも頑張ってみよう。思いのほか私はミーハーだったようだ。

 

実際、防災教育・危機管理・事業継続計画(BCP)・リスクマネジメントに関する研修や研究を実践している身として、気象予報士は自らを高めるうえで相乗効果が大きい資格であることは間違いなかった。全国的に著名な気象予報士やアナウンサーの方々とも、これまでに幾度となく防災イベント等でご一緒させていただいているではないか。気象に関する専門性は、むしろ今の自分にこそ必要で、かつ欠けているピースだったのである。

 

[学習方法]

【1】主力テキストの読み込み。何回も何回も繰り返して通読する。

■気象予報士試験受験支援会『気象予報士かんたん合格テキスト 〈学科・一般知識編〉』

■気象予報士試験受験支援会『改訂新版 気象予報士かんたん合格テキスト 〈学科専門知識編〉 (らくらく突破) らくらく突破』

■気象予報士試験受験支援会『気象予報士かんたん合格テキスト 〈実技編〉 (らくらく突破) らくらく突破』

 

合格者のほぼ全員が読んでいる市販テキスト。故に読む以外の選択肢のない3冊。1回目の受験までに3~4周はする。「一般知識編」は、数学(算数)があまりにポンコツな私には苦痛でしかなかった。様々な物理公式の意味を理解するのに時間がかかりすぎた。少しでも捻られると全く歯が立たなくなるのは最後までそうだった。それでも「実技編」まで読み進むと、一般知識の公式や、専門知識のマニアックな知識が、実技試験を回答するために必要な知識のベースだったことに気付けた。「気温が低く、密度が高いと、層厚が薄い」という、中学高校レベルの理科・物理のテーゼが、ようやく理解できるようになった。アウトプットイメージができたことで、一般知識と専門知識の理解が飛躍的に進んだ。3周目くらいからやっと普通の本のように読めるようになった。一般知識で挫折しかけても、専門知識が全然覚えられなくても、一般知識、専門知識、実技のテキストは一気に通読することをおすすめしたい。

 

【2】「かんたん合格テキスト」でもやや難しいと感じた場合は以下の本を早めに読んでおく。

■中島俊夫『イラスト図解 よくわかる気象学 第2版』

 

『かんたん合格テキスト』シリーズですら、初見だとあまりに頭に入ってこないので、途中に挟み込んで読んだ本である。「読み物」として外出時のおともになる。平易な言葉で書いてあり、イラストも分かりやすいので、「ああ、そういうことか!」と目から鱗の記述が多かった。物理や化学の世界の言葉を、平易な日常文系の言葉にしてくれているようで、私個人にはありがたい本だった。1度読んで気になる知識を『かんたん合格テキスト』の余白に書き込むことで情報を集約した。

 

【3】気象学の入門書やバイブルは、多くの受験生が目を通すので必ず目を通す。

■小倉義光『一般気象学 第2版 補訂版』

 

気象に関わる人間は全員読んでいるはずの気象学のバイブル。一見すると難しい記述もあるが、現象を説明している箇所は、そのまま試験に使われている言い回しだったりするので、所どころ専門性が高くて理解ができなくても、とにかく読んで目には入れておきたい。主力テキストがだいたい身についてきたころに読むとさほど抵抗感なく読めると思われる。受験するのが実技のみとなった第2回と第3回の前にも、低気圧や前線のイメージを固めるために該当箇所を読んで眺めたりすることもあった。移動中の読み物として割り切っておくと苦痛なく読めるかもしれない。このほか受験に直接役立つかどうかはわからないものの、この記事の末尾の書籍写真に写っている気象学の書籍を購入し「読み物」的にパラパラと眺めていた。気象学関係の書籍は今後も随時新しいものを買い足していくつもりだ。

 

【4】主力的テキストが2周目に入ったくらいから実際の問題に触れて、出題傾向に慣れる。

■気象予報士試験研究会『気象予報士試験精選問題集(2021年度版)』

 

過去問である以上はこれが解けなければ意味がない。最初は全くわからないが言い訳はできない。とにかく問題に取り組む、解説を読む、テキストに戻ってマーカーを付けるの繰り返し。近道はない。地道に解き続けるしかない。実技の問題演習用としては文字や図が小さくて使いにくいが掲載過去問は豊富なため最後まで重宝する。第1回目の受験時には2回しか通読できなかった。一般知識編では、いまだに解説を読んでもお手上げ状態の計算問題もあった。そのような問題が出てしまえば、当日は早々にあきらめて、どこかの選択肢にチェックしようと決めていた(これは20年以上前の司法試験の択一のときもやはり同じことを考えていた。)。■饒村曜『気象予報士 過去問徹底攻略 改訂3版』も買っていたが、私の場合は結果的に「精選問題集」だけの利用となった。

 

【5】鬼門である実技対策に特化した対策を考える。「習うより慣れろ」。テキスト通読→過去問→テキスト通読→過去問、を受験前日まで繰り返す。

■気象予報士試験受験支援会『気象予報士かんたん合格テキスト 〈実技編〉 (らくらく突破) らくらく突破』<再掲>

■気象予報士試験対策研究会『気象予報士実技試験合格テキスト&問題集』

■新田尚『気象予報士試験速習テキスト 実技編』

■岩槻秀明『図解入門 最新天気図の読み方がよーくわかる本 第2版』

■気象業務支援センターが公表する過去問と解答例(処分済だが段ボール1箱分になった)

 

気象予報士試験の最大の壁が「実技」。「実技1」「実技2」と2問出るのも恐ろしい。体力と集中力も切れる。1回目の受験では『かんたん合格テキスト』しか見ることができなかった。結果は惨敗。過去問も通しでちゃんとやってこなかったので当然といえば当然の結果。高層天気図が非日常的で目新しいものに見えていた時点で修行不足は明白だったのだ。

 

実技だけの受験となった2回目以降、高層天気図の全体像を把握しなければいつまでたっても実技の主題パターンに慣れないと考え、高層天気図の読み方に関する簡単な解説書を探す。『図解入門 最新天気図の読み方がよーくわかる本 第2版』との出会いで一挙に理解を深めることになる。その後は、ややマニアックな古いテキストも買い求めて、高層天気図に慣れることを目指した。『気象予報士試験速習テキスト 実技編』は非常に有益な入門書になった。実技対策で最も重要なのは「習うより慣れろ」。過去問は解答パターンを暗記するまで繰り返す。とにかくどんな問題が出ても狼狽えない平常心が大切ではないか。

 

テキスト解説と過去問を3周目くらいまで繰り返すと、ようやく出題パターンに慣れてくる。ここまで来るのは相当苦痛。点数にして30点レベルの答案を自ら根気よく採点し添削していく地道な作業となる。白状すると、しかし、その過程で500hPaや850hPaの天気図が、地上天気図以上に「当たり前」になってくる。敢えて言えば「HBC北海道放送」さんのウェブサイトは高層天気図がみやすくまとまっており、天気予報を耳にした際に500hPaや850hPaの高層天気図や等をみると「上空の寒気」や「湿った空気」の具体的な図面がイメージできるのではないかと思います。

 

3回目の受験ともなると、公表されている過去問については、既に同じものを5~6回は解いているので、なんの抵抗もなく高層天気図を見ることができるようになったし、問題や図表の多さに動揺することが無くなっていた。この「慣れ」こそが最大の勝因だったように思う。過去問演習は特に重要だ。「公式解答の書きぶり」をとにかく真似するようにする。慣れるようにする。次第に「気象予報士試験の独特の定型構文」が見えてくる。

 

学科試験で使った主要テキストは、実技試験の過去問や練習問題を進める際に、常に手元においていた。特に何度も出てくる知識やテーマは、『かんたん合格テキスト』の「実技」のテキストの余白に情報集約することで資料を一元化した。何度も間違えるフレーズは別紙にしてファイリングすることもした。実技問題の「問1」は一般知識、専門知識でかならず出てくる基礎知識であり、絶対に間違えられない得点源だったし、問の最後のほうにでてくるメソ・スケールの問題でも、一般知識や専門知識で学んだ単語を回答することが多い(警報、注意報、災害や防災に関する情報は毎回主題される)。その意味で、実技はあくまで学科試験の延長上にあることを強く意識することで、実技に対する未知の恐怖のようなものを少しでも払拭しようと考えていたように思う。やはり基本をしっかりとおさえていれば、未知の問題が出ても大きく外れた解答をしなくて済むという事ではないだろうか。

 

【6】独学者はモチベーション維持にメルマガを利用する。

独学者が多い気象予報士試験。私もこれまで記述してきた市販のテキストのみを教材として独学を続けた。唯一の例外が、メルマガ「めざメール」登録と「めざてんサイト」の過去問解説ブログである。メルマガの公開動画は見られたり見られなかったりであったが、ほぼ毎日メールが来るので、「ほかの人たちも頑張っているに違ない」というモチベーション維持効果は絶大であった。動画の中には合格者ならではの実技試験テクニックが満載であり極めて有益なものが多かった。改めて感謝を申し上げたい。また、モチベーション維持という観点では、「おかえりモネ」「天気の子」の監修もされている、荒木健太郎先生の■『すごすぎる天気の図鑑』(とTwitter)も大いに役立った。私もきれいな彩雲の写真が撮りたいと願っている。

 

最後に受験勉強時間ですが、2021年7月ころから学習をスタートし、2022年1月の3回目の受験まで、期間にすると約1年半の受験勉強でした。なお、受験~合格発表までの期間は受験勉強を一切していません。当然ながら日々の仕事や家事が優先となりますので、早朝、ランチタイム、就寝前、移動時間を繋ぎ合わせての勉強時間確保となっていました。毎日同じように十分な時間を確保することはできませんでしたが、合計すると500時間以上は使っていると思います。1回目の受験までは約6か月準備しましたので、学科に関してはそれなりに準備したという実感はありました。その後は、学科合格により学科免除となったので、これを天命と受け止め、免除措置期間中に決着をつける覚悟で受験しました。不合格でも4回目の受験はしないつもりでしたので気合も入ったのだと思います。社会人になってからは、日商簿記2級(但し司法修習生時代に取得、簿記3級は同時受験したが不合格…。)、宅地建物取引士(当時は宅地建物取引主任者)、医療経営士(3級・2級)、マンション管理士、管理業務主任者、2級FP技能検定を受験しています(ほかに防災士、防災介助士、カッパ捕獲許可証等の民間資格も持っておりますが、これは毎日の集中した受験勉強が必要な種類の資格ではないと思います)。これらは、いずれも幸運なことに1回の受験で資格取得できていました。複数回受験に挑戦し続けた国家資格は司法試験以来22年ぶり。受験回数だけで言えば気象予報士が過去最高回数になりました。半年ごとに受験機会があったので、モチベーションを維持したまま乗り切れたことが大きかったのかもしれません。

独学の相棒たち。

 

(参考情報/気象業務支援センターより情報抜粋)

令和 4 年度第 2 回(通算第 59 回)気象予報⼠試験の結果

1.試験年⽉⽇ 令和 5 年 1 ⽉ 29 ⽇(⽇)
2.試験地 北海道、宮城県、東京都、⼤阪府、福岡県、沖縄県
3.申請者数 4,777 名
4.受験者数 4,166 名
5.合格者数 198 名

※合格率4.8%(過去平均5.5%)